うちに来てくれる? と言ったときの卯月の目。
煽られてふわふわと高揚した気分のまま卯月の家に着いて部屋に入ると、ドアの閉まる音とともに沈黙が降りた。
触れられる距離にいるのに、卯月は俯いて右手を握ったり開いたりを繰り返しているし、私は気の利いた言葉ひとつ思い浮かばずに卯月を見つめて突っ立ったまま。

「…卯月」

沈黙に耐えられず、ともすれば上擦ってしまいそうな声を抑えて卯月を呼ぶ。
卯月は一度拳をぎゅっと握って、開いて、顔を上げたら、あっと思う間もなくわずかな距離を詰めて唇を重ねてきた。
身構える余裕なんて無くて、卯月がそうだったからなんとなくそのまま薄く目を開けて続けるキスが、触れるだけの軽いものなのになぜだか酷くその先を意識させる。
堪らず、首筋に唇を這わせて華奢な身体を弄っていると、初めはくすぐったそうにくすくす笑っていた卯月が次第に吐息を漏らして身を捩るようになり、それがまた私の頭の熱を上げる。

「凛、ちゃん」

意外にはっきりとした声で呼ばれて、慌てて顔を見たら卯月は少し笑って私の頬を指の背でそっと撫でた。
そのまま何も言わないでいるから首をかしげてみると、卯月は少し目を泳がせてから顔を赤らめて内緒話をするみたいに耳許に唇を寄せて言う。

「もっと、ちゃんと触って?」

爆弾みたいな卯月のセリフにくらくらしながら、手を引かれてベッドに移動し、腰掛ける。ギシリ、とベッドが軋む音にどきりとして、意識しすぎだと苦笑したら卯月も恥ずかしそうに笑っていた。

少しだけ震えていた指先を宥めてボタンを外して肩からシャツを落とし、キャミソールを脱がせたら、もともとわずかにしか残っていなかった余裕が一気に無くなった。
着替えだって見慣れているし、お風呂だって一緒に入ったことがあるのに、私の目は卯月の身体に釘付けで、露になった鎖骨を辿って肩に、腕に、キスをする。

「んっ、凛ちゃ…、あっ、」

背中に回した左手で身体を支えながら右手で脇腹を撫で上げ、下着の上から胸を触ると卯月が甘い声を上げる。柔く揉み続けるうち直接触りたくなって両手を背中に回してホックを外し、上半身に何も纏っていない状態になった卯月をベッドに横たわらせた。
組み敷いた華奢な身体が薄紅に染まる様に見惚れて、思わず凝視してしまう。

「凛ちゃん、あの、あんまり見ないで」

「え、あ、ごめん」

慌ててそう答えるけれど見ずにいられるはずもなくて、誤魔化すように一度目を閉じて息を吐いて、続き、するね、と囁いたら卯月は真っ赤になって顔を背けた。

身体を隠していた腕をどけて、少し緊張しながら胸に触れ、手のひらで包み込むようにして揉む。時折卯月が小さく声を上げて、それに誘われるように胸の先を口に含んで舌で押して、吸って、もう一方の胸も同じように触りながら、その先を親指で柔く押す。指と指の間で挟んで擦り上げる。

「やっ、…あっ、凛ちゃん、それやだっ…んっ」

卯月が背中を反らして、喘ぐ。身体のあちこちに口づける。白くて綺麗なお腹に舌を這わせると腰が跳ねて、思わず太腿に触れた手を卯月が掴んだ。
はっとして身体を起こしたら、卯月は顔を真っ赤にして私の服を引っ張り、凛ちゃんも脱いで、と弱々しく訴えた。

涙の溜まった卯月の目。頭が沸騰しそうな気さえする。どくどくとうるさい心臓の音を無視して急いで服を脱ぎ、ベッドの下に投げ落としている間、卯月は身体を起こして私に背を向けてスカートを脱いでいた。お互いもう上半身には何も身に付けていないし、下半身だって纏っているのは下着だけになっている。

「卯月、こっち向いて」

背を向けたままの卯月に声を掛けるけれど恥ずかしいのか振り向かない。焦れた私は剥き出しの太腿に触れ、後ろからお腹に腕を回して抱き締めた。

「はっ…、りんちゃ、…」

「…ごめん、もう、無理」

卯月の素肌に触れているところ全部がぴりぴりする。心臓がどきどきして息が上がる。
髪を掻き分けて、耳から首筋、項にキスする。下から掬うように胸を触って、もう一方の手で臍の辺りを撫でる。卯月が背中を反らして漏らした吐息が艶かしくて、堪らなくなって少し強引に体重をかけて押し倒した。
身体を捻って見上げてくる卯月が私の首の後ろに手を掛けて、私を引き寄せて、唇を食む。キスに夢中になっている卯月に応えながら、肩を押さえて仰向けにさせ、内腿を撫で上げ、一瞬躊躇ったけれど下着の上からそこをそっと指で撫でた。

「っ、…あっ、…りん、ちゃんっ」

濡れた布の感触。私が少し指を動かす度卯月が喘ぐ。少し呼吸を落ち着かせて、脱がすよ、と言ったら卯月は微かに頷いた。腰を浮かせてくれるのに合わせて下着を下ろし、脚から抜き取る。
本当は少し怖い。けれど、触りたい。
早く。
濡れそぼったそこに恐る恐る指をあててゆっくり動かすと、卯月は右手の甲を口に押し当てた。

「ふ、っ、…んっ、ぅ、ぁ…」

抑えきれない声が余計に艶かしい。もっと声を出してほしくて、たぶん、一番感じるところを少し強めに刺激する。

「あっ、あっ…、そこっ…だめ、」

卯月が必死に私の手を掴んで、止める。

「…やだった?」

「そうじゃ、なくっ、て」

泣きそうな声。とりあえず離れようとした私の手を握ったまま、うう、と呻いて、黙って見ている私の顔を見てから手で自分の目を隠して。
なか、いれて?
そう言うから、頭の中が真っ白になる。
ぎゅっと固く目を閉じて、息を吸って、吐いて、たぶん今とても苦しい顔をしていると自覚しながら指をあてがう。探りながら指を進めて、その間も卯月の口から漏れている喘ぎが耳を襲う。場所が分かって、卯月の様子を見ながら少しずつ慎重に中にいれて、指の付け根まで入ったところで息を吐く。

「痛い?」

訊くと卯月は顔から手を外してゆるゆると横に首を振って、何かを考えているような顔をしていた。

「なんか、不思議」

「え?」

「もっと痛いんだろうな、って思ってたから」

気持ちいいよ、と言って普段と変わらない調子でえへへ、と笑った。私は何も答えられなくて、卯月の目を手で覆って、中にいれている指を少し動かした。
途端に、はっ、と吐き出される息。
目を覆う手を身体の横に移動させて卯月を見たら目を閉じて泣き出しそうな顔をしていて、指を引いて奥にいれると首を反らして喘ぐ。

「や、あっ、…あっ、りんちゃ、もう、…あ、んっ」

興奮でどうにかなりそう。
目の前に晒された白い喉に噛み付きたい衝動を捩じ伏せて、舌を這わせる。中を擦るように指を動かして、徐々に速く、もう、うまく考えられない。
たぶん必死だった。卯月の声と、乱れる姿で頭の中はぐちゃぐちゃで、卯月に呼ばれたのにもすぐに気が付かない。

「はっ…あっ、りんちゃんっ、ま、って、凛ちゃんっ」

「あ、ご、ごめんっ」

ほとんど叫ぶくらいに呼ばれて我に返り、反射的に離れようとしたら頬を両手でつかまれた。

「凛ちゃんの、顔、見せて」

荒い呼吸の下で私の顔を見て微笑んで、耳朶を触りながら続きを促された。衝動が抑えられない。制御できない。必死すぎてきっと見られたものじゃない、余裕なんか一切無い顔、見られて。

「…んっ、あっ、ああっ、りん、ちゃんっ、あっ」

「うづ、き…っ」

卯月は時折背中を反らして目を閉じたけれど、最後まで私の顔から視線を逸らさないでいた。

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