Cherish
暗闇の中、激しい呼吸音と、時折ベッドの軋む音だけが響いている。
外は雪が降っているらしく、シンと静まりかえっていて、暖房を止めた部屋の中は吐く息が白く見えるほどに冷えていた。
それなのに身体が熱くてたまらない。

汗ばんだ手の平、そっと動かし。
熱い吐息に誘われて、もう一度強く抱きしめる。


どうしてこうなったのかなんて説明のしようもなくて。
ただ感情に流されるまま。


「―――っ!」


苦しいのか、そうではないのか。闇にまぎれてその表情ははっきりとは分からない。
喘ぐ声を必死で押さえて、それでも漏れてしまう声がさらに情欲を煽る。
腕の中、身を捩るのはあたしの姫君。



いったいどうしてこうなってしまった?



久しぶりに帰省したあたしたちは、なんだかんだで結局のところ一緒にいた。
お互い相手の家に泊まりに行くことなんか珍しいことでもなくて、たまたま今夜は夕歩があたしの部屋に来ていただけ。



最初に口付けたのはどっちだった?



部屋の照明落とし、枕元、小さな明かりだけで話を続けて。
強い眼差し。
覚えているのはそれだけ。

絡みつく腕に引き寄せられ。
どこまでもどこまでも堕ちていく、それでいいとさえ感じる。
何も考えられない。求めて、求めて、いつかそこにたどり着くの。


「…………」


あたしは、拒絶されることさえ考えず、ただただあなたを抱きしめた。
好きで好きで堪らなくて。どうしようもなくて。



「夕歩……」



それは悲しい告白などではなく。
あなたにささげられるたったひとつの言葉。



『好きなの』



口に出したらその瞬間、それは何か別のものになってしまう。
そんな恐怖を抱えて。
それでも。



本当にこれでよかったの?



「……泣きそうな顔してる」

頬に触れたあなたの手は熱くて。



”どうして迷うの”



あなたの瞳が語ること。

あなたの心が欲しいのに。
そう、姫君を抱いた裏切りの騎士は、跪き、頭を垂れて罪を請う。

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