Suit yourself.
手持ち無沙汰で何もすることがない休日の午後。
綾那はどこかに出かけたし、夕歩のところには午前中ずっと入り浸っていたから、午後もだとうざいとか言われそうだ。
当然他にも友人知人はあるし、外出してもいいけれど、それは何となく面倒くさい。
そんなわけで順は部屋で雑誌を読んでいた。
「何してんの、順」
「うわ!……ゆ、夕歩」
いきなり声をかけられたからかなり吃驚した。思わず心臓の辺りに手をやる。
夕歩はそんな順の様子を意に介することなく、スタスタと部屋の中に入ってきた。
「あの、夕歩…なんでハシゴ昇ってくるのか聞いてもいい?」
「上がるからに決まってるでしょ」
「そうじゃなくて……」
なんで上がってくるのかを聞いてるのに。と、思っているうちに夕歩は順のベッドに上がってきた。
そしてそのまま順の目の前に座り、順の手元を覗き込んだ。
順は反射的に雑誌を背中に回して隠す。
「またいかがわしい本なの」
「いかがわしいって言い方はやめてよ」
ともかく、その雑誌は夕歩には見せたくない類のものだったので、それを取ろうとする夕歩と、ガードする順との不毛な攻防が始まった。
順は片手で夕歩を押し戻し、もう片方の手は目いっぱい伸ばして夕歩の手が届かないようにする。夕歩は押し戻す順の手を押さえ込み、伸ばされた順の腕を掴む。
戦いは順の方が手の長い分有利だったが、夕歩が無理矢理取ろうとして体重をかけてきたので後ろに倒れ、結果は惨敗。
夕歩は倒れた順の上に乗ったまま、雑誌をぱらぱらとめくった。
「ああ…!」
内容が内容だから見せたくなかったのに。
その雑誌は小説系の雑誌で、ちょっとアダルトなものが多い。言うならばエロ。ひたすらエロ。泣きたくなるくらいエロ。たぶんというか間違いなく18歳未満お断り。何でそんなもの持っているのかなんていうことは聞かないで欲しい。
しばらく中を見ていた夕歩は呆れたようなため息をついて言った。
「……こういうののどこが面白いの」
そう聞かれて答えられるようなものではなく、面白いから面白いとしか言いようがない。
そもそも面白いとかそういうので読んでいるのではない気もする。何故だか言ってはいけないような気がするから言わないけど。
というか至近距離で、しかも上に乗っかられてそんなことを聞かれても落ち着いて答えられるわけがない。
それどころかさっきまであの雑誌を読んでいたからだろうか。
夕歩の温もりとか、柔らかさとか、腰の細さとか、そんなことばかり気になってしまって、目を合わせられない。
視線を合わせようとしない順をどう思ったのか、夕歩はズイ、と顔を近づけた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、夕歩…」
焦るどころの話ではない。順の頭の中は真っ白。ショート寸前、パニック状態だ。
夕歩の方は落ち着いていて、むしろ順の過剰な反応に驚いたようだった。
それで悪戯心が芽生えたのか、それとも最初から「その気」だったのか。
夕歩はこんなことをのたまった。
「いいよ。私を、順の好きにしても」
一瞬何を言われたのかわからず、理解するのに随分と時間がかかった。
そして理解した途端、順の思考は完全に止まった。身体は硬直し、反応が出来ない。
冗談かと思ったが、さっきと打って変わって夕歩は真剣な表情をしている。
しかし、いいよと言われて、はいそうですかとすぐに行動に出られるほど順は肝が太いわけでもなく、がっついているわけでもない。
ただどういうつもりで夕歩がこんなことを言うのか量りかねた。
「どういう、意味…」
間抜けだ。あまりにも間抜けだ。
順はそう思ったが、考えた末に出た言葉はそれだった。
いまや危うきこと累卵のごとき状況にある理性でも、ここで下手に手を出して気まずくなるのは困る。何より夕歩を傷つけたくはない。
だが次の言葉は順の理性をアッサリと破壊した。
「私を好きにして、って言ってるのがわからない?」
恥らう表情と、拗ねたような口調は、言葉に出来ないほどの威力を持っていた。
ましてやほぼ完全に密着した状態でのこと。
こんなこと言われて何も出来ないようなら理性なんて犬に食わせてしまえばいい。
順はそっと夕歩の頬に手をかけ、引き寄せる。
震える長い睫毛が夕歩の緊張を表していた。緊張しているのは順も同じであったけれど、お互いの緊張をほぐそうとは思っていた。
けれど夕歩の唇に触れた途端、そんなことは考えられなくなってしまった。
柔らかい唇にもっと触れたくて、何度も何度も口付ける。
やや性急なキスは二人の息と思考を乱し、麻痺させていった。
順はその興奮のままに夕歩の服の裾から手を入れて細い腰から背中、肩甲骨のラインをなぞっていく。
すでに肌は汗ばみ始めており、しっとりとしていた。
そして一度手を離し、キスを中断し、夕歩を支えながら起き上がると、今度は夕歩の方に体重をかけて反対側に押し倒した。
「ゃ、だ…順…」
唇で耳から首筋、鎖骨を辿る。
夕歩の声を聞きながら、順は次第に自分の押さえが利かなくなっていくのを悟った。
きっともう止まれない。
濃密な空気が室内を満たす中、二人は忘我の闇へと沈んでいった。
綾那はどこかに出かけたし、夕歩のところには午前中ずっと入り浸っていたから、午後もだとうざいとか言われそうだ。
当然他にも友人知人はあるし、外出してもいいけれど、それは何となく面倒くさい。
そんなわけで順は部屋で雑誌を読んでいた。
「何してんの、順」
「うわ!……ゆ、夕歩」
いきなり声をかけられたからかなり吃驚した。思わず心臓の辺りに手をやる。
夕歩はそんな順の様子を意に介することなく、スタスタと部屋の中に入ってきた。
「あの、夕歩…なんでハシゴ昇ってくるのか聞いてもいい?」
「上がるからに決まってるでしょ」
「そうじゃなくて……」
なんで上がってくるのかを聞いてるのに。と、思っているうちに夕歩は順のベッドに上がってきた。
そしてそのまま順の目の前に座り、順の手元を覗き込んだ。
順は反射的に雑誌を背中に回して隠す。
「またいかがわしい本なの」
「いかがわしいって言い方はやめてよ」
ともかく、その雑誌は夕歩には見せたくない類のものだったので、それを取ろうとする夕歩と、ガードする順との不毛な攻防が始まった。
順は片手で夕歩を押し戻し、もう片方の手は目いっぱい伸ばして夕歩の手が届かないようにする。夕歩は押し戻す順の手を押さえ込み、伸ばされた順の腕を掴む。
戦いは順の方が手の長い分有利だったが、夕歩が無理矢理取ろうとして体重をかけてきたので後ろに倒れ、結果は惨敗。
夕歩は倒れた順の上に乗ったまま、雑誌をぱらぱらとめくった。
「ああ…!」
内容が内容だから見せたくなかったのに。
その雑誌は小説系の雑誌で、ちょっとアダルトなものが多い。言うならばエロ。ひたすらエロ。泣きたくなるくらいエロ。たぶんというか間違いなく18歳未満お断り。何でそんなもの持っているのかなんていうことは聞かないで欲しい。
しばらく中を見ていた夕歩は呆れたようなため息をついて言った。
「……こういうののどこが面白いの」
そう聞かれて答えられるようなものではなく、面白いから面白いとしか言いようがない。
そもそも面白いとかそういうので読んでいるのではない気もする。何故だか言ってはいけないような気がするから言わないけど。
というか至近距離で、しかも上に乗っかられてそんなことを聞かれても落ち着いて答えられるわけがない。
それどころかさっきまであの雑誌を読んでいたからだろうか。
夕歩の温もりとか、柔らかさとか、腰の細さとか、そんなことばかり気になってしまって、目を合わせられない。
視線を合わせようとしない順をどう思ったのか、夕歩はズイ、と顔を近づけた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、夕歩…」
焦るどころの話ではない。順の頭の中は真っ白。ショート寸前、パニック状態だ。
夕歩の方は落ち着いていて、むしろ順の過剰な反応に驚いたようだった。
それで悪戯心が芽生えたのか、それとも最初から「その気」だったのか。
夕歩はこんなことをのたまった。
「いいよ。私を、順の好きにしても」
一瞬何を言われたのかわからず、理解するのに随分と時間がかかった。
そして理解した途端、順の思考は完全に止まった。身体は硬直し、反応が出来ない。
冗談かと思ったが、さっきと打って変わって夕歩は真剣な表情をしている。
しかし、いいよと言われて、はいそうですかとすぐに行動に出られるほど順は肝が太いわけでもなく、がっついているわけでもない。
ただどういうつもりで夕歩がこんなことを言うのか量りかねた。
「どういう、意味…」
間抜けだ。あまりにも間抜けだ。
順はそう思ったが、考えた末に出た言葉はそれだった。
いまや危うきこと累卵のごとき状況にある理性でも、ここで下手に手を出して気まずくなるのは困る。何より夕歩を傷つけたくはない。
だが次の言葉は順の理性をアッサリと破壊した。
「私を好きにして、って言ってるのがわからない?」
恥らう表情と、拗ねたような口調は、言葉に出来ないほどの威力を持っていた。
ましてやほぼ完全に密着した状態でのこと。
こんなこと言われて何も出来ないようなら理性なんて犬に食わせてしまえばいい。
順はそっと夕歩の頬に手をかけ、引き寄せる。
震える長い睫毛が夕歩の緊張を表していた。緊張しているのは順も同じであったけれど、お互いの緊張をほぐそうとは思っていた。
けれど夕歩の唇に触れた途端、そんなことは考えられなくなってしまった。
柔らかい唇にもっと触れたくて、何度も何度も口付ける。
やや性急なキスは二人の息と思考を乱し、麻痺させていった。
順はその興奮のままに夕歩の服の裾から手を入れて細い腰から背中、肩甲骨のラインをなぞっていく。
すでに肌は汗ばみ始めており、しっとりとしていた。
そして一度手を離し、キスを中断し、夕歩を支えながら起き上がると、今度は夕歩の方に体重をかけて反対側に押し倒した。
「ゃ、だ…順…」
唇で耳から首筋、鎖骨を辿る。
夕歩の声を聞きながら、順は次第に自分の押さえが利かなくなっていくのを悟った。
きっともう止まれない。
濃密な空気が室内を満たす中、二人は忘我の闇へと沈んでいった。
「何、してるの」
太陽が随分と西に傾いた頃、順はベッドを抜け出し、部屋の隅でガサガサ音を立てていた。
夕歩は布団の中から顔だけ出して、気だるげにその様子を眺めている。
と、順はすぐに何か手に持ってハシゴの下に戻ってきた。
「のど渇いたかな、と思って。飲み物」
「そういうことになったのは順のせいでしょ」
「え、でも夕歩の方が誘――ぁたっ」
いきなりチョップを食らった。二発三発とまるで容赦がない。
あーでも、なんか幸せだからいいや。
と、思う辺り順の脳みそはだいぶ溶けてしまったらしい。
その溶けた脳みその成せる業か、順はハシゴの一番下に足をかけ、唇を指差した。
「は?」
「飲み物のご褒美に夕歩の唇を、なんて」
「…………」
またチョップされるかな、と思ったけど今度は違った。
夕歩は布団から半身を出して顔を近づけてくる。その白い肩や腕、胸などが目に入って順はまた理性を飛ばしそうになった。
こればっかりはいくら見ても慣れそうにない。
太陽が随分と西に傾いた頃、順はベッドを抜け出し、部屋の隅でガサガサ音を立てていた。
夕歩は布団の中から顔だけ出して、気だるげにその様子を眺めている。
と、順はすぐに何か手に持ってハシゴの下に戻ってきた。
「のど渇いたかな、と思って。飲み物」
「そういうことになったのは順のせいでしょ」
「え、でも夕歩の方が誘――ぁたっ」
いきなりチョップを食らった。二発三発とまるで容赦がない。
あーでも、なんか幸せだからいいや。
と、思う辺り順の脳みそはだいぶ溶けてしまったらしい。
その溶けた脳みその成せる業か、順はハシゴの一番下に足をかけ、唇を指差した。
「は?」
「飲み物のご褒美に夕歩の唇を、なんて」
「…………」
またチョップされるかな、と思ったけど今度は違った。
夕歩は布団から半身を出して顔を近づけてくる。その白い肩や腕、胸などが目に入って順はまた理性を飛ばしそうになった。
こればっかりはいくら見ても慣れそうにない。