バイオレンスは愛ゆえに。
「夕歩、お願いがあるんだけど」

真剣な顔をして順が部屋にやってきたのは、ある日曜の午後のことだった。
さすがにこんな顔をした刃友を放っておくわけにもいかず、夕歩は寮の部屋に迎え入れた。
しかし一分後、夕歩は自分の行動を後悔することになる。



「夕歩にこれを着て欲しいの!」
「…………は?」

部屋に入ってきた順が目の前に突き出したのは…どう見ても他校の制服。それもなんというか…ブレザー?そしてネクタイにワイシャツ、結構ミニなスカート。

「これ、なに?」

一応訊いてみた。

「何って、制服」

なんの悪びれもなく答える順に、少々眩暈を覚える。
なんで他校の制服を持っているのか。しかも何故自分に着ろというのか。
これってもしかすると妖しいプレイなのではないのだろうか。
様々な疑問が夕歩の頭に浮かんできたが、あまりにも爽やかに妙な要求をし、何か変なこと言ってますか?という顔をされると、実はこっちがオカシイのかもしれないと思えてくる。

「念のために聞くけど。どこから手に入れたの?」
「あ、大丈夫大丈夫。ちゃんと買ったから」

買った?
制服って普通に売ってくれるもんなのだろうか。
…いや、順は時々妙な本を読んでいるからなにか変なことをしたのかもしれない。
何となくそれ以上は聞いてはイケない気がした。知らない方がいいこともある。

「もしかしてこの間の星奪りのお金これに使ったの?」
「うん、これだけじゃないけど。あ、夕歩の取り分には手をつけてないから安心して!」
「いや。それは、いいんだけど…」

なんかだんだん疲れてきた。
もう長い付き合いになるけど順のこういうところはよくわからない。拒否するのも気力が必要だから、とりあえず言うことを聞いてあげることにした。
制服だから。そう、もっと別の変な衣装とかじゃないから。
そう自分に言い聞かせる夕歩に、順は期待のマナザシを向けている。
ワクワク。
別に順が擬音を発しているわけではないが、そんな音が聞こえてくる。…気がする。

「…もう、わかった。着るから、むこう向いてて」

言った瞬間、順の顔が輝いた。それはそれは眩しく。
順が後ろを向くと、もう仕方がないので着替え始める。
ワイシャツ。あ、なんかピッタリ。というかブレザーもスカートもサイズピッタリなんだけど。

…………。

訊いちゃダメだ、と本能が警告している。
5分ほどして着替えると、体育座りをしている順の方に声をかけた。
なぜ体育座りなのかはよくわからない。

「順、着たけど」

振り向いた順は、しばらく凝視していたかと思うと、片手で鼻を押さえ、もう一方の手をグッと前に突き出した。

「ぐっ…!」
「ぐ?」
「…グレイトだよ、夕歩」

グッジョブ。



幸せそうな順の顔はこの後朱に染まったという。



全治二週間。
お大事に。

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