迷探偵瞳子の事件簿
ある朝瞳子が教室に入ると、白薔薇のつぼみの乃梨子さんが目に入った。
だけどいつもと違って乃梨子さんは何だかとても悩んでる感じがしたからここは親友として瞳子が悩みを聞いてあ・げ・る!
そう思ってスキップしながら乃梨子さんのところに向かったわ。

「ごきげんよう、乃梨子さん」
「…ごきげんよう、瞳子」
「何か悩んでいるみたいだけど、どうかなさったの?」
「悩み?…そっか、これは悩みって言うよね」

何かよく分からない言い方をして、乃梨子さんは机に突っ伏した。
それから「あんな恥ずかしいこと、できないよ」なんて、呟いた。
えっ!?つまり乃梨子さんは誰かに恥ずかしいことをさせられそうになっているということかしら?
これは大変だわ、と思ったところで先生が来たから、悔しいけど瞳子は追求を諦めたの。
お昼休み、いつものように乃梨子さんは薔薇の館に向かった。
もう、聞き出せないじゃない!
…八当たりしても仕方ないわ。
そうよ。おとなしく腹ごしらえをすべき。
瞳子はもくもくとお弁当を食べたわ。
放課後。
瞳子の情報アンテナによると、今日は山百合会の招集はない。
だけど乃梨子さんは薔薇の館に足を向けている。
きっと何か分かるはず。瞳子は乃梨子さんをチェケラッチャ!
音を立てずに尾行なんて朝飯前なんだから。
でも、さすがに会議室までは入れない。乃梨子さんがビスケット扉を閉めたあと、その扉にぴったりくっついて中の様子をうかがった。

「ダメ!お姉さま。…いや…」
「いや、なんて。本当は嬉しいんでしょう?」

ああっ。なんてこと!マリア様のお庭で……!
でもマリア様。後学のために、瞳子に少しだけ覗くことをお許し下さい。


……鍵穴から中を覗いた瞳子は驚いた。まぁ、なんてこと!白薔薇さまは…ああ、これ以上は言えない。
瞳子は勢いよく扉を開けて中に踏みこんだ。
そこにいらっしゃったのは、マリア様のような微笑を浮かべた白薔薇さまとウサ耳つきの哀れな乃梨子さん。
待ってて、瞳子が今白薔薇さまの毒牙から助けてあげる!…なんてことはやっぱり言わない。
だって白薔薇さまがそれはそれは危険なオーラを纏っているのだもの。

「あら、瞳子ちゃん。いいところに来たわね。乃梨子、瞳子ちゃんにお手本を見せてもらったら?」
「あ、あの…」

お手本ってなんのですの?そう言い終わる前に白薔薇さまはどこからかまたウサ耳を取り出して瞳子に渡そうとする。
なぜ二つ持っているのですか?と聞いたら、「バカね、スペアよ」などと吐かしやがっおっしゃった。
ウサ耳のスペアなんて普通持ってない…というかウサ耳を持っていること自体おかしいのではありませんこと?
それよりそんなこと言ってる場合じゃない。

「志摩子さんも酷いよね。私にウサ耳つけてウサギは寂しいと死んじゃうんです、って言えって言うの」

しかもウルウルお目目で。乃梨子さんがそう言うと白薔薇さまがちょっと怒って乃梨子さんに詰め寄った。

「乃梨子、志摩子さんじゃなくてお姉さまでしょう?」
「ああっすみませんでしたお姉さま」
「ふふ。それでいいわ」

とかなんとか言いながら、白薔薇さまが妖しい目をして乃梨子さんの頬を撫でているのは心臓に悪いと思う。
それから白薔薇さまは、さあ瞳子ちゃん言ってみて、なんておっしゃった。
その上乃梨子さんに演劇部だからできないなんて言わないよねって言われてしまったら女優瞳子、やらないわけにいかなくってよ。
仕方なくウサ耳をつけて始めようとしたら、乃梨子さんがくだらない要求をしてきた。
ついでに祐巳さまのお名前を呼ぶこと、なんて。
演劇部だもんね〜って、卑怯だわ。
でも平常心。大丈夫、瞳子は女優よ。
ウサ耳をつけて準備万端。深呼吸をして、言った。
「祐巳さまぁ〜。ウサギは寂しいと死んじゃうんですぅっ!」
もちろんウルウルお目目もバッチリ。さすが瞳子。
だけどビスケット扉が開いた瞬間、瞳子は固まってしまった。
なんでいるの、祐巳さまっ!
瞳子の背中に嫌な汗が流れたわ。
そして祐巳さまは横にいた由乃さまに文句を言われながら鼻血を吹いてもらうのももどかしく、あろうことか瞳子に飛びかかってきて…瞳子は美味しく頂かれてしまいました。


めでたしめでたし。

back