月下美人
深夜、二人でコンビニに出掛けた帰り道。
いつも通るのとは違う、地元の人しか通らないような細い路地。
一人だったらこんな時間には絶対通らないような、寂しい道の途中にあった、小さな公園。

「ちゃんと整備されているのね」

「うん、昼間は結構子供が遊んでるよ」

志摩子の後について公園の敷地内に入りつつ、乃梨子はコンビニ袋をごそごそしている。
回数はそう多くはないけれど、乃梨子は時折こんな時間に買い物に出掛ける。
もう遅いから家で待っていて欲しいと言われても志摩子はついてきてしまう。
心配なのと、離れたくないのと、半々の気持ち。
この道は初めて通る。

「小学生以来かしら」

懐かしむように、志摩子はブランコに腰掛けた。
その様子に乃梨子は片眉をあげて、怪訝な表情を見せる。

こんなこと、普段はしないのに。

そう思うのも無理もない、志摩子だって考えて行動している訳じゃない。
今日は何となく、そんな気分なのだ。

「どうしたの」

志摩子のすぐそばまで来て、顔を覗き込む。
ほんの少し心配そうな表情。それからちょっと戸惑っている。

「お月さまが」

上を向いて、右手で軽く指を指す。

「綺麗でしょう」

だから、なんとなく。

志摩子は横に立ったままの乃梨子の手を取って、誘うように小さく笑う。

「今日は甘えん坊なの?」

軽くキスを落として、乃梨子が苦笑しながら問う。

「そうよ」

志摩子は立ち上がり、お月さまを見上げた。

「早く、帰りましょう」

今宵のお姫様は随分と我儘。

もっとあなたに触れたいから。

耳元で艶然と微笑みながら囁かれた言葉に、乃梨子の頬は赤く染まった。

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