little christmas
師走という言葉の語源には諸説ある。
が、いずれにしてもこの時期はとにかく走り回るほど忙しいという人が多い。御多分に漏れず、二人ともとにかく忙しくて会う暇もない日々を送っていた。
色々と遣り繰りをしてやっと取れた時間。
ようやく会うことができたのだが、疲労が溜まっていたのだろう。
昼食の後片付けをしているわずかな時間に乃梨子が眠り込んでしまった。

「寝てしまったのね」

このところレポートやらテストやら、バイトやらで、あまり睡眠も取れていない様子だったし、部屋の中は温かいし、お腹がいっぱいになって眠くなってしまったに違いない。
起こすのは酷だ、と思った志摩子は自分のストールを彼女に掛けた。
一緒に出掛ける予定のミサまでにはまだ時間がある。

何となく本を読んだりする気になれなかった志摩子は寝顔観察を始めた。
閉じられた瞳、綺麗な鼻梁、細い顎、薄く開いた唇。
乃梨子は可愛い。
言うと、いつも本人は否定するが、本当にそう思っている。

乃梨子の手が小さく動いたのを見て軽く指を絡めると、握り返されて志摩子は微笑む。
ん、と小さく漏れた声に少しだけ邪な考えが浮かんで、こんなときに何を考えているのかと、ひとり眉を下げて。

「……無防備」

その姿、その指先、その声、そしてなによりも理知的なその瞳に自分はとらわれている。
それを幸せなことだとも思う。

「乃梨子、起きて」

もう起こしてもいいくらいの時間が経っているからと心に言い訳して、その実、早く自分をその瞳に映して欲しいと思ってしまう。

私、我儘なのよ。本当は。

「起きないと」

キス、するわよ。
普段なら絶対言わないようなことを口に出して、彼女の唇に指で触れた。
んん、とまた少し声が漏れるけれど起きる気配はない。

もう、と呆れたような調子で言うと、志摩子は顔を寄せた。
ゆっくりじりじりと近づく。
自分でやっておいて、こんなことを思うのは勝手だけれど、相手が眠っているところに仕掛けるというのはどうしてこんなに恥ずかしいのだろう。

唇が触れるまであと10cmほどになったとき、唐突に乃梨子が目を開けた。

「……志摩子さん」

「……」

「え、何してるの」

何、って、その。

「あ、私寝ちゃってたんだ。ごめん、あ、ストール掛けてもらって……あれ、志摩子さんどうしたの」

「何でもないわ」

「え、なんか怒ってない?志摩子さん、志摩子さんってば」

乃梨子って時々凄く鈍いときがあるの。

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