little christmas

「ねー、まだー?」

キーボードを叩く蓉子の背後、能天気な声で呼び掛ける人物が約一名。

「もう二時間くらい経つんですがー」

「……待ち合わせは夕方だったでしょう」

年末年始の休暇が迫る中、年内にレポートを提出するようにと課題を出されたのが二日ほど前のこと。
慌てて資料を集めて、今日の夕方には書き上がるだろうと連絡はしておいたのに昼過ぎに押し掛けてきた佐藤聖は炬燵に半身を入れたままつまらなさそうにテレビを眺めている。

「蓉子ちゃんに少しでも早く会いたかったから」

「大方誰も遊んでくれなくて暇なんでしょう」

バレたか、と悪びれることもなく笑って答える様子を見て、蓉子はまたレポートに戻る。
聖の手元にあるコーヒーは、カップも含めて聖自身が持ち込んだもので、今日もいつの間にか勝手にポットでお湯を沸かして飲んでいる。蓉子にも紅茶を淹れてくれたのは気が向いたからなのか、それとも彼女なりの労りなのか。

世間的に言えば今日がクリスマス・イブで、つまりは聖の誕生日前日で。
だから急いでいるのだ。気持ち、普段の1.5倍くらいには。
聖と今日会う約束は半月くらい前のことで、本当はランチに行こうという話もしていたのだから。
しかし、課題を出されたからには仕方がない。あと数日の猶予があるからと課題を後回しにするようなことはできない性分。真面目だと言われるかもしれないけれど、そんなことをしたら気になって楽しめないだけ。

正直なところ、聖が待ち合わせ時間よりも早く来てくれたのは嬉しくて。
早く会いたかったから、なんて言葉、嘘でも嬉しくて。
だから。


(人の気も知らないで)


蓉子ちゃん冷たいなー、とぼやいている聖が小憎らしい。
無視してレポートに集中していると、しばらく経って唐突に聖が何事か話し始める。

「ねーどう思う?せっかくこの佐藤さんが来てるっていうのに蓉子ちゃんときたら」

「ソウネ、ヒドイトオモウワ」

「でしょ?」

「アイガ、タリナイワ」

暇すぎるのか、今度はひとりで変な会話を始めてしまった。
恐る恐る振り向くと、チェストの上に置いてあったクマのぬいぐるみを抱えて、ワカルーとか酷いわよねーとか、呟いているのだ。
佐藤聖が。

想像してほしい。
佐藤聖がクマのぬいぐるみを抱えて、こちらを見ながらぶつぶつ文句を言っている様を。

「……」

蓉子は黙ったままレポートを書き綴っているパソコンに視線を戻して、ため息をこぼした。

「あ、蓉子酷い!スルーされるのって傷つきますよ?」

わさわさと背後で音がして、聖がすぐそばまでやって来た。
クマのぬいぐるみを抱えたまま。

「……それ」

「ん?」

「それ、やめてちょうだい」

それ、とクマを指してから、蓉子は力尽きたように顔を押さえて目を逸らした。

「……無理」

可愛い、って思ったことなんて絶対言ってやらない。

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