家庭教師☆志摩子
いくら乃梨子が主席入学の頭の持ち主だと言っても、わからないことはいくらでもある。
そんなときは学校の先生に聞きに行けば良いのだが、夏休みのさなかであれば話は別。先生たちも学校に来ているかどうかはわからないし、たとえ来ていたとしても部活などで職員室にいるかは不明なのだった。
宿題でわからないところがある、という話が出たのはこの間の寺、教会巡りの時だった。
毎日会えるわけではないから近況報告としてお互いあれこれ話すうちに宿題の進行具合も話題に上って、それで志摩子さんが教えてくれるということになり…。

そして今に至る。
ここは乃梨子の下宿先の自室。テーブルを挟んで志摩子さんとそれぞれの宿題をこなしている。わからないところは志摩子さんに聞く。

「ごめんね、志摩子さん。迷惑かけちゃって」

三度目くらいだったか、質問をした後、乃梨子は言った。
志摩子さんだって宿題で大変だろうに、と乃梨子が言うと志摩子さんは「いいえ、嬉しいの」と答えた。

「え?」
「だって私、あなたにお姉さまらしいことあまりしてあげられないから」

だから嬉しいの、と

「そんな!そんなことないよ志摩子さん。志摩子さんは私が困ってる時ちゃんと分かってくれるし…どうしてこんな凄い人が私のお姉さまなんだろうって思うくらいなんだから」
「私は凄くなんかないわ。乃梨子の方こそ…私を支えてくれているのよ」
「えっと、じゃあ、おあいこだね」

二人でふふふ、と笑いあった。それから乃梨子は、さっき思わず握ってしまった志摩子さんの左手を解放しようとする。
すると志摩子さんのもう片方の手、右手が乃梨子の手に重なり、それを拒んだ。
乃梨子は顔を上げて志摩子さんの目を見る。妖しく潤んだ瞳に、乃梨子の心臓は激しく動きだした。ドク、ドク、と大きく、速く。
急速に高鳴る鼓動とともに志摩子さんの顔との距離も詰まっていく。そして柔らかい唇が触れた、と思うとすぐ離れ、内心がっかりしていると、続いて志摩子さんにしては乱暴な口付けがやって来た。そしてその急な変化に乃梨子が戸惑っているうちに志摩子さんは唇を離し、にこにこといつも通りに笑っている。
まるで何か悪いことでもした?とでも言うかのように。
乃梨子が目で抗議すると、志摩子さんは再び蠱惑的な瞳で言う。

「続きは後で、ね」

その後乃梨子が物凄い勢いで宿題を片付けたのは言うまでもない。

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