飾り気のない公園の街灯に照らされた横顔は涙が出るくらいに綺麗で。
声をかけることすらためらわれた。

それでも気配を感じた手負いの天使はゆっくりとこちらを向き、ようやく志摩子は

「お姉さま……」

と、呼びかけることができたのだ。
冬枯れの街
中指にはぴったりだけど薬指にはあわない。
いつ測ったのか記憶がないけれど、お姉さまは測ったと言っていた。
ということは測る指を間違えたのか。いや、それともやはり中指に嵌めなさいということなのか。

シンプルなシルバーのリング。
それはある意味典型的なクリスマスプレゼントで、でもとてもお姉さまらしいプレゼントのような気がして、志摩子は嬉しかった。
その場で嵌めてみるという考えも浮かばないくらいに。
指輪=左手の薬指という考えは短絡的なのだろうか。

答えが出ないまま着ていたコートを脱いでハンガーに掛けた。

今日はクリスマス・イヴで、明日はクリスマス、つまりお姉さまの誕生日。当たり前のようにデートをして、楽しかったし、もちろん明日も会う約束をしていた。
別れ際のお姉さまは一瞬とても寂しげな顔をして、それはすぐに笑ってごまかしてしまったけれど。
何か言いたげな表情。
聞いても教えてくれなくて。
思い出すと無性に会いたくなってしまった。

さっき別れたばかりなのに、どうしても会いたくてたまらなくて。
志摩子は脱いだばかりのコートを掴み、小走りに玄関へ向かった。
そして脱いだばかりのショートブーツを履き、居間に一声かけると、返事も聞かずに家を飛び出した。

細い道路の脇の木々が、寂しげに揺れていた。
「どうして…?」

走って乱れた呼吸を整えようとしている志摩子を前に、聖は驚いていた。
本当に、どうしてここに?

「お姉さまに……」

言いながら志摩子は自分が首に巻いていたマフラーを外し、聖の首に巻きつけた。
聖はただ呆然としていた。ベンチに座ったまま、立ち上がることさえ忘れて志摩子を見上げている。
そんな聖に志摩子はポツリと呟いた。

「……お姉さまに会いたかったから……」

会えてよかったです、と付け加えて。志摩子は微笑んだ。

ああ、きっと。
きっと志摩子は自分を心配して来てくれたんだ。
今日は特別な日だから。

本当は志摩子を帰したくないと思っていた。
ずっと一緒にいるとこができないなら今夜だけでも、と。

「志摩子」

聖は立ち上がって志摩子を引き寄せた。
何の抵抗もなく、嬉しそうに聖の腕の中に収まる志摩子。
左手には自分がプレゼントしたリング。
そっと口づけた。
途端に真っ赤に染まった頬に手を添える。
夢見るような、視線。

「今日、泊まっていって」
「……はい」

そのまま暫し訪れる沈黙。
やがて、ただ見つめあうことに耐えられなくなった志摩子が目を閉じる。
聖は志摩子の唇を奪う。
激しく、その高ぶりのままに。


空から舞い降りる白い羽根のような雪は、その熱さに次から次へと溶けていった。

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