Prologue 2.
昔から勘は良い方だと思う。
だから、それなりに早く気がついた。
きっかけは些細なことで、久しぶりにメールを送ろうとしてふと違和感を覚えた。本当にただそれだけのことだ。

気づいた時は、正直に言えば焦った。
それまでは通う学校が別れたらといって、蓉子と縁が切れるなんて考えもしなかった。
けれど慌てて確認した着信履歴も、メールの履歴も、高等部を卒業してすぐの一、二回を除いてすべて自分から発したものだと分かって愕然とした。
自分から連絡をとらない限り蓉子から連絡が来ることはない、なんて。
そんなこと、考えもしなかった。

何が理由なのかは分からない。
何か気に障るようなことをしてしまっただろうかと考えてすぐにそれを否定する。呆れたり、腹を立てたりしたのであれば直接言ってくる人間だ、蓉子は。
そもそも高等部を卒業した後はメールや電話で短いやりとりをすることがほとんどで、長話をすることもなければ会うことも、そう多くはない。
何かしでかしたとは考えにくい。

では、なぜ。

そこまで考えてすぐ、傲慢だと思った。
所詮蓉子にとっては中学、高校時代の同級生にすぎない。
しかも聖はその大半をどうしようもない人間として過ごしてきた。
いくら世話焼きな彼女とはいえ、大学生になってまで腐れ縁の友人の面倒をみる義理などないのだ。
そしてその事実に慌てる理由も、権利も無い。

このまま気がつかずに何年も過ごしていたなら、やがて蓉子と会うこともなくなってしまうのだろうか。
そう考えて、それは嫌だと反射的に思った。

それからは連絡を取るのを控えたり、逆に頻繁にしてみたりしたが、何も変わりはしなかった。
蓉子はいつメールをしようと、電話をしようと、何も変わらない。
拒絶されているわけではないということに安堵しながら、置いていかれたような気持ちになることを止められない自分がいる。

これはなんなのだろう、と聖は思う。

講義室の窓から外を眺めながら考え続ける。
飽きもせず降り続ける雨は一向に止む気配がなく、憂鬱な気分を加速させる。
きっとこの梅雨という時期が悪いのだ。考えても詮の無いことを考えるのはやめた方がいい。

梅雨が明けたら、蓉子に会いに行く。
そう決めて、聖はひとつため息を吐いた。

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