Chapter 2.
忙しくも穏やかで平凡な日々が相も変わらず続いていた。
ただ、聖と会う回数は確実に増えた。

週に一度、あるいは二週間に一度くらいの頻度で聖は連絡を寄越すようになった。
そして月に一度か二度は顔を合わせる。
空虚を感じることが少なくなった代わりに、蓉子は聖のことを考えることが多くなった。

蓉子にとって聖は、どう冷静に考えても特別な存在だった。
それは出会ったときから変わらない。
決して馬が合うわけではなく、むしろその反対と言っていいくらい、何度となく喧嘩を繰り返してきた。
恐らくはお互い、誰よりも。

落ち着いているとか、優等生であるとか、そんなことを大人たちに言われ続けてきた蓉子は、幼い頃から他の子どもたちとは少し違っていた。
大人たちの期待に応えることは嫌なことではなかったし、他人のために何かをすることを厭う気持ちもなかった。
けれど、ごく普通の少女のように無邪気でいることはできなかった。
今思えば何となく冷めた目で世間を見ていたと言っていい。
そういう意味では蓉子は聖と同じだった。
ただ、蓉子は社会というのはそういうものであり、ある程度妥協してしまえばいいのだと理解していただけだ。

聖が苦しむ姿を見るたび、蓉子はいつも言い知れない思いを胸に抱いてきた。

そんなにいつも正面から向き合わないでもいい。
もっと肩の力を抜いて生きていい。
だから、そんなに苦しまないで。

何度そう言って抱き締めたい衝動に駆られたのか分からない。
しかし一度もそれを口に出したことはない。
ただの友人が踏み込んでいい範疇を超えていたからだ。

聖に対して自分がどういう感情を持っているのか、蓉子はもはや分からなくなっていた。
考えたところで、数式のように答えが出るわけではない。
いつか分かる日が来るだろうと思いながら日々を過ごす。

元々ごく一般的な友人関係とはかけ離れていたが、踏み込みすぎて衝突するでもなく、距離をとりすぎているわけでもなく、今の聖との関係はこれまでになく平穏で、考えてみれば不思議なものだった。
そしてそれはいつまで続くのだろうと漠然と思う。

いつまでも続いてほしいと思う反面、長く続くことはないだろうと思う。
二人が今のままでいる限り。

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