愉快な訪問者。

【訪問者~蓉子ママ編~】

大学入学と同時に同棲(同居ではない。ここがポイント)を始めた聖さまと蓉子さま。
喧嘩もしながらそれでも仲良く暮らしておりました。
そんなある日蓉子ママがひょっこり様子を見に現れました。
もともとなかよしこよしな三人は楽しく談笑していらっしゃったのです。
しかし聖さまがお茶を入れに台所に立ったときのことでした。

「蓉子ちゃん、ちょっと…」

蓉子ママはなにやら苦笑しながら手招きしています。
頭にハテナマークを浮かべながら蓉子さまはちょこっと近づきました。
すると蓉子ママは

「ここ、気をつけなさいよ?」

などと言いながらご自分の首筋を指差しました。

「えっ…」

はっ。もしかしてまさか……!
反射的に蓉子さまは首筋を押さえましたが後の祭り。
見る間にお顔が真っ赤に染まっていきます。

「お茶入ったよ~って、あれ?」

聖さまがリビングに戻ってくると蓉子ママは可笑しそうな顔をしているし、愛しの女王さまは真っ赤な顔をしております。
いったい自分がいない間に何が起こったのだろう?
聖さまが不思議に思っていると蓉子さまはキッと睨みつけておっしゃいました。

「聖!」
「はい?」
「バカ!」

聖さまが最後に見たのは…

麗しのハニー蓉子さまが自分のみぞおちに正拳を繰り出してくる姿でした。

【訪問者~蓉子パパ編~】

時はちょいとさかのぼります。それはGWのことでした。ええ、あの大型連休のときのことです。
蓉子パパはお仕事の都合でお休みが蓉子ママとずれてしまいました。
そのことを言うと蓉子ママは「なら友達と遊んでくるわ」とかおっしゃって高校の同級生たちと旅行に。
そんなわけで置いてきぼりにされたパパは寂しいなーと思い、連休なのに帰ってこない愛娘、蓉子さまを訪ねることにしました。
娘の蓉子さまは現在佐藤聖というリリアン女学園での同級生と同居なさっております。
いやいや、あれは同棲なのだと蓉子パパもご存知です。
そういえば引越しのときに家具を運び込んだのですが、セミダブルのベッドがひとつ、という事実に少々複雑な思いを抱いたようです。
まあ蓉子が幸せなら良いさ。
蓉子パパはそう思っておりましたがせめて休みのときくらいは顔を見せてほしいなと。
少々しょんぼりしながらインターホンを押しました。

ピンポーン

「……はい?」

少々長い沈黙の後に愛娘、蓉子さまの声が聞こえました。
パパが名乗ると、ドアの向こう側でなにやら話し声が聞こえましたが、しばらく待っているとドアが開きました。
どうしたんだ、蓉子。聖さんと喧嘩したのか?
なんて聞いてみましたが、蓉子さまは無言です。
蓉子さまの後に続いて中に入ってみると、佐藤聖さまがしょんぼりしておりました。
背中に哀愁を漂わせて、なにやら片付けております。それはよく見ると陶器の破片でした。

まさか…。

顔を上げた聖さまの頬には、見事なもみじ。

パパは思いました。



昔こんなことがあったなぁ、と。

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