Chapter 5.
色とりどりのイルミネーションが街を華やかに彩り、人通りの多い場所を歩けば、そこかしこから賑やかなクリスマスソングが聞こえてくる。
世間はすっかりクリスマス一色で、どこもかしこも活気に満ちているように見えた。

蓉子から用事があって少し遅れると連絡があったのは十分ほど前のことで、どこか近くの店に入っていてほしいと言われたものの動く気にならず、寒空の下でこうしてベンチに座って待ち続けている。

吐く息が白く、雪でも降りそうだと思って空を見上げると、日が落ちる寸前の茜色がとても綺麗で。
ああ早く蓉子に会いたい。そう思う。

仮に今蓉子がここにいて、私がそう口に出すのを聞いたとしたら、何の脈絡もないわよ、と呆れるか、笑うか。
でも、今の蓉子なら軽く笑って聞かなかったことにするのかもしれない。

私たちの関係は表面上何の変化もなく、ただ、何かが変わってしまったことに、私が気づかないふりをし続けているだけなんだろう。

でもそれはあくまで憶測にすぎなくて。
蓉子が何を考えているのかなんて本当のところは分からない。
誤魔化し続けている自分の気持ちだって、結局はこうだ、と言えないくらい私は臆病なのであって。

「聖」

蓉子の声がして、私は正面を向く。

「思ったより早かったじゃない」

「外で待ってるって言うから急いできたのよ」

そう言われてみれば蓉子は少し息が上がっている様子で、どうやら本当に急いできてくれたようだと申し訳の無い気持ちになるとともに少し嬉しくなる。

「冷えるわ。行きましょう」

「どこ行くんだったっけ」

「買い物に付き合ってくれるって話でしょう」

「そうだった」

立ち上がる私に蓉子は少し呆れたような視線を向ける。
いつもとなにも変わらない様子に安堵して、私は蓉子の後について歩き出した。
買い物の後、近くの店で食事をして駅に向かう途中。
このところ妙な沈黙が降りなくなったのはきっと蓉子が気を使って話しかけてくれるからなのだ。

けれど、だからこそ私は油断していたのだと思う。

「もうすぐあなたの誕生日ね」

「ん、ああ。そうね。ようやく二十歳」

「お酒飲みすぎないようにね」

チラリと私の顔を見て笑う。
私は去年も何だかんだと文句を言いながら蓉子がそばにいてくれたな、と思い出す。

「今年は一緒にいてくれないの?」

「他にいくらでもいるでしょうに」

「いないよ。いても、蓉子がいい」

言った瞬間、蓉子の足がピタリと止まる。

「聖」

「何?」

咎めるような口調に少し戸惑う。

「そういうのやめてちょうだい」

「そういうの、って」

「分からないならいいわ」

話は終わった、とでも言わんばかりに蓉子は歩き出してしまう。

「どうしたのよ。説明してくれないとわからないって」

「聖」

「何?」

「いつまでもこのままでいられるなんて、思わないで」

それだけ言うと、蓉子は私に背を向けた。
拒絶するような後姿に、私はもう何も言うことができなかった。



私はそれから蓉子に連絡をすることはなく。
蓉子からも連絡が来ることはなく。

それでも途切れることなく続く、いつも通り何も変わらない穏やかな日々を送りながら、きっとこのまま、何事もなかったかのように過ごせるだろうと、そう思うのに。

私はどうしても、蓉子に会いたいと願ってしまう。

胸の奥に封じ込んだはずの想いは、知らぬ間に大きくなって。
もう、誤魔化すことなんて到底できそうもなかった。

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